卒業生のキイチが会いに来てくれた。
キイチは第 3 期卒業生で 7 年前の中 3 生、私が歴代一番叱った生徒だ。
定期テストで 1 教科 1 桁点、5 教科合計 100 点も取れないやつで、当然のように偉そうに遅刻してきては、授業中にガムを噛みだすような超クソガキだった。
当時の私は今よりもっとダメな指導者であったから、こいつをまともにするにはこれしかないと、とにかく大声で怒鳴り叱り続けた。
キイチ本人が「あんときの自分クソでしたね」と笑いながら話していたが、当時の私も大概クソだった。
(毎年毎年自分の指導を振り返ると、卒業していった生徒たちに対して申し訳なく恥ずかしくなる。)
キイチが中 3 生の 1 学期、あまりの態度の悪さに、私は出したことのないほどの大声で怒鳴り叱り倒した。
窓が揺れるほどの大声と、自分の欠点をすべて指摘された衝撃でキイチは嘔吐きながら号泣し、文字通り膝から崩れ落ちた。
(キイチには双子の兄がいて、このときは 2 人とも叱り倒され瀕死だった。)
おまえらはもう辞めろと教室から引きずり出して帰らせた。
その日の深夜、トマトのように真っ赤に目を腫らせ、土偶のような顔をしたキイチたちがやってきた。
帰らされてから 2 人で話し合ったようで、塾を続けさせてほしいと嗚咽しながらヘタクソな日本語で懇願してきた。
だが私は「叱り、謝り、よし許してやろう」みたいな、チープな師弟の茶番劇は吐くほど嫌いだ。
これからの 2 人を思って縁を切る覚悟で言葉を発したあとに、そんな簡単に続けさせられない。
しかし私が生徒なら、そこまで怒鳴られて続けようとは絶対に思わない。
実際 2 人が戻ってくるとは思っていなかった。
2 人を帰らせたあと、あいつら自殺するんじゃないかと不安で不安でしょうがなかったから、キイチたちが現れたときは正直ほっとした。
もちろん最後まで見てやりたいが、けじめはつけさせないといけない。
そこで、本当に勉強するつもりがあるなら 1 学期の期末テストまではてめぇらで勝手に死ぬほど勉強してみろと、それまで謹慎、停塾させた。
その後 2 人は無事に復帰した。
それからも数々の事件はあったがここでは割愛する。
そんなキイチも卒業まで通塾し、なんとか公立高校に合格した。
キイチが高校生になり、たまに同期の卒業生たちと集まって会うことはあったが、高校卒業後の進路を決める頃にひとり相談にきた。
色々なきっかけがあったようで、理学療法士になりたいと言う。
私の数少ない友人のひとりに理学療法士がいるが、真面目で頭が良い彼でも理学療法士になる勉強や実習はやはり大変そうだったから、キイチには相当大変な道だろうなと思った。
それでもあのキイチが自分の進みたい道を見つけ、その第一歩を踏み出すときに会いに来てくれたことが大変嬉しかった。
ぜひ実現させてほしいと思った。
一緒に PC でいくつかの大学や専門学校を探し、理学療法士になるための方法を見たりした。
卒業生に対して最早私にしてやれることはないので、そのときは応援だけして背中を見送った。
キイチが通う高校はキイチの自宅から遠かったから登下校だけでも大変だったと思うが、無事に高校も卒業し、専門学校に進学したようだった。
それからしばらく交流はなかったと思うが、昨年 2019 年の元日、キイチからこんな LINE が来た。
変わらずに理学療法士を目指しているんだろうと思った。
成人式を迎える正月だった。
だが成人式には行かずに自宅で勉強しているという話を同期の卒業生たちから聞いた。
そして先日、スーツを来て立派な男になったキイチが突然現れた。
理学療法士の国家試験に合格し、春から東京で働くという報告だった。
この塾を卒業してから今日に到るまでの話をしてくれた。
どれだけ勉強してきたか。
どれだけ苦労してきたか。
どれだけ周りの人に助けてもらったか。
どれだけ良い出逢いに恵まれたか。
そんな話を自慢するでも卑屈になるでもなく、本当にただ素直に真っ直ぐに、充実感の溢れる満面の笑顔で話してくれた。
その顔を見ていると泣きそうだった。
(今も書きながら思い出して泣きそう(笑))
キイチがどれだけ苦労したかは想像に難くない。
本当によく合格したと思う。
中学を卒業してからも「あんたが勉強できるのは誰のおかげね」と家でお母さんと何度も塾の話をしてくれることがあったそうだ。
もちろん塾のおかげなんかではまったくなく、キイチ自身とキイチを直接的に支えた家族や仲間や先生のおかげだが、そのように話してくれていたことは嬉しかった。
余談だがキイチのお母さんが作ってくれたカレーはめちゃくちゃうまかった。
キイチが会いに来てくれたのは東京へ発つ前日だった。
この大変な時代に東京へ旅立った。
キイチのいいところは、
すごいやつをすごいと素直に認められるところ、
周りに助けてもらっていることに気づいていて心底感謝できるところ、
不器用ながらも仲間を大切にするところ、
心が折れそうになりながらもガッツで続けられるところ、
何より自分の弱いところを知っていて、それを受け入れ努力できるところだ。
これからもまだまだ大変なこともあるだろうけれど、キイチなら大丈夫。
一生応援している。
大好きだぞ。
がんばれ。
全然ピントあってなくてごめん(笑)
こんなキイチとの再会の嬉しさに、1 億年ぶりに長い記事を書いた。
キイチの姿にエネルギーと勇気をもらい、襟を正された。
キイチを見習って改めて今年度もがんばろうと思えた。
ありがとう。
(終)
当時のキイチの写真をサルベージしてみた。
ついでに当時の私とシラベ先生。
この年はスライドショーの DVD 作ったからちょっとデータ探して YouTube にアップしようかな。