ナイアん家

STUDY ROOM nai`a の Blog

街を包む黄金色

公立一般入試、当日。


かなり冷え込んだ朝だったが雲ひとつない黄金色の朝焼けだった。

久々に空を見た。
目を開けていられないほどの光が昇ってきた。
いつもの通り道の景色に色が付いて見えたのも、もう3月だというのにまるでスケート場のような耳が痛いほどの寒さと匂いを感じたのもいつぶりだろう。

塾に来るまでにそれぞれの受験校に向かう受験生の群れを見ながら9人の顔を繰り返し繰り返し思い浮かべていた。

今日は不思議と心配も緊張もない。
昨日の生徒達の落ち着かない様子を見ていたらそんな感情は何処かへ行ってしまった。

入試前日の昨日は自由参加の自習開放にした。
開室時間から次々とやって来ては仕上げ用に渡していた課題に取り組んでいた。
つい先日まで全然緊張なんかしていないと言っていたのにどう見てもそわそわしていた。
運動会のリレーで座って順番を待っているときの内臓が浮くような感覚を、痒いけど何処が痒いのかわからず掻いても掻いても消えない痒みのように処理できないでいたのだろう。
手が止まって遠い目をしながら何かを考えていたり、お尻がざわざわしてじっとしていられずに体をもじもじさせていたり、心拍数が上がり留めておけないもやもやを鎮めるために溜め息交じりに深呼吸をしていたり、それでも時間の限りやり遂げようとする健気な姿が愛おしかった。
授業を聞いている方がよっぽど落ち着くのか、誰かの質問をホワイトボードで解説する度に皆前を見て食入るように聞いていた。
トランプでもするかと一瞬考えたがその不安ととことん向き合わせるのがいいかと思いちょこちょこ話だけして一頻り笑わせたあとは最後の時間まで皆集中して取り組んでいた。

入試前日に来ている生徒達を送り出すときはいかにもな感じで照れ臭いが毎年握手をする。
大きい手、小さい手、温かい手、冷たい手、がんばってきた生徒達の手を、今日までたくさん我慢してがんばってきたね、明日はこの手でしっかりがんばっておいで、いってらっしゃいという想いを込めて強く握る。
昨日も帰り支度ができた生徒からひとりずつ名前を呼んで握手をしながら絶対大丈夫、いってらっしゃいと声を掛けていた。
すると1人の生徒が泣き出してしまった。
え?今?なんで?(笑)
と笑っていたら2人、3人ともらい泣きを始めてしまった。
こりゃいかんと、
明日だよ!まだ終わってないよ!泣くのは発表のときまでとっとかな!
と大きな声を出した。
最後の日だろうと入試前に生徒達が泣くのは良くない、というか恐い。
先生としては満足感や達成感に浸れて先生冥利に尽きる気持ちの良いことなのかも知れないが、生徒達の緊張の糸が切れてしまうのが恐い。
これ以上刺激しないよう言葉少なに握手をしていってらっしゃいとだけ声を掛け送り出した。
こぼれた涙の分不安だけが解消されていればいいのだが。
それでも自信のある瞳をしていたから大丈夫だろう。

これからどんな人と出逢い、どんな経験をし、どんな人生を送るのかを決断する大切なとき。
勉強や偏差値や受験が全てとも一番とも微塵も思っちゃいないが、生徒達と同じ年の頃は真剣に取り組まなかった僕だから、こんなに本気で入試に臨んだ生徒達を羨ましく思う。

それだけ真剣に努力をしたのだから、君達の中の神様は君達に相応しい道を示してくれるはずです。
何故だか皆合格してほしいという願望は湧いてきません。
ただただ積み重ねてきた全てを出し切れることを祈っています。
もし何かのはずみで歯車が食い違いミスが重なり失敗したとしてもそれはそれで大切な経験です。
入試の今日からも何かを学び成長してください。

2教科目が終わった頃か。
今夜も塾に来るらしい。
なんで?(笑)
溜まりに溜まったプリントや教材の片付けと掃除をしながら待っていよう。


Keita